ちゅーわけで、ヒデの家に置いとったもやしで、さっそく夕飯の支度や。

 とはいえ、おれらはひとり暮らし1年生。しかもまだ1ヶ月半ぐらいの、ピッカピカの1年生。基本的に“切って炒める”オンリーや。

 大量のもやしに、お気持ち程度の玉ねぎとキャベツと豚肉を炒めたもの。そして白米と漬物、豆腐とわかめの味噌汁。これがおれらの豪華な夕飯や。

 ちなみに、米はヒデのじいちゃんだかばあちゃんだかから送られてきたもの。そして味噌と漬物は、おれの実家でママンが丹精込めて作ったやつや。ほんまありがたいで。

「……レパートリー、増やさないとね」

 もやしを頬張りながら、ヒデがぽつりとこぼした。
 
「せやな。基本炒めるだけやしな」
「少し飽きてきたもんね、もやしだらけの野菜炒め」
「……せやな。もう1週間、もやしだらけの野菜炒めやな」

 もやしは安い。庶民の味方や。せやけど料理初心者のおれとヒデは、炒める以外に能がない。塩コショウ、焼き肉のたれ、豆板醬……いろいろなもので炒めたものの、もやしはもやし。

 いや、もやしは好きなんやで。ほっそい体しとるくせ、そのポテンシャルは計り知れんからな。せやけど、ずっと同じ料理ばっかっちゅーのはさすがに飽きるわ。何かしら工夫せんとな。

「ヨネが料理好きって言ってたし、いろいろ教えてもらおうかな」
「おお、それがええな。もやし料理のレパートリー増やさな」
「いや、もやしだけじゃなくて……」
「もやしレパートリーを増やすことは節約につながるッ!」
「そうだけどさぁ……」
「そういや、浅尾っちは自炊せえへんのかな。あんま食わん言うてたけど」
「全然しないって言ってたよ。基本的に毎日外食だって」
「なんやて……おれらが毎日外食しとったら破産宣告やで!」

 浅尾っちはきっと、そこらの牛丼屋なんかには行かんのやろ。テーブルの上に純白のナプキンが綺麗に折りたたまれとるような店へ行っとるんやろ。

「浅尾は昔から投資やってるらしいよ。かなり稼いでるっぽいし、ご実家からの仕送りなしで、ずっとひとり暮らししてるって」
「投資か……ほならおれらも」
「できるわけないじゃん。浅尾だから賢く稼げるんだよ」
「そやし浅尾っちに秘訣を教えてもらうんや」
「無理でしょ。投資なんてリスクがあること、浅尾が気軽に勧めるわけないし。俺らは地道にバイトするしかないって」

 前期の履修科目が固まったさかい、おれはガソリンスタンド、ヒデはファミレスの厨房でバイトを始めた。ヨネもコーヒーショップで働いとるし、当然おれらにはサークル活動に精を出す時間などない。パリピな大学生活とは程遠いで。

「はぁ……神様っていけずやな……同じ人間やのに、ここまで差があるなんて……」
「そうだね……」

 キュウリの糠漬けを咀嚼する音が狭い部屋に響く。……いや、これはこれで青春やろ。なぁ?