「優雅な朝食をとってーそれからどうしたのー?」
「まぁまぁ慌てなさんな。落ち着きたまえよヨネダくん」

 ひとつ咳払いをして、おれは一番前の席の椅子へ乗った。うむ、非常に良い見晴らしだ。普段は周りを見上げることが多いから……って、誰が小さいねんッ!

 おっと、横道に逸れてしまった。気を取り直して、ヨネの熱い視線を受けながら続きを語り始める。

「……育ちのいいおれは、噴水の前にハンカティーフを広げて座っていたのさ」
「ハンカティーフ! お上品ー!」
「しかし今日は、春の妖精さんがイタズラしている日。食事を終えて立ち上がると、妖精さんがおれのハンカティーフを持ち去ってしまったのである」
「あらまぁー妖精さんはイタズラ好きだもんねぇー」

 情感豊かなおれの説明に、ヨネが真剣な表情で頷きながら合いの手を入れてきた。

 ヒデは何故か苦笑いしつつ手を動かして、浅尾っちは相変わらず、おれらの存在をシャットアウトするように完全集中モードで筆を滑らせとる。

 小林恋語りの熱心な聴衆はひとりだけかい。盛り上がりが足りひんが、熱い眼差しを向けてくるヨネのため、おおいに語ってやろう。

「しかーし! 妖精さんは途中でハンカティーフを手放した。舞い上がったハンカティーフが、ひらりひらりと落ちていく……そう、噴水の方へ」
「たいへーん!」
「母さんが夜なべして縫ってくれたシルクのハンカティーフがッ! おれは慌てて手を伸ばした。するとそこにッ!」
「そこにぃー!?」
「ひと足早くッ! シルクのハンカティーフをキャッチした人影がッ……!」
「人影がぁー!?」

 ノリノリヨネのおかげで、あったまってきたで! ここからがクライマックスや!

「それはなんとぉ!」
「なんとぉー!?」
「サラッサラの黒髪ッ !雪のような白い肌ッ! 宝石を散りばめたような瞳ッ! 透き通るような美しい声をした女神だったのであるッ!」
「キャー女神ー!」
「その女神は言った……これ、貴方のハンカティーフですよね? と。おれは答えた……ああ、間違いない、と。そして差し出されたハンカティーフに手を伸ばすと……その瞬間ッ!」
 
 おれは見得を切る歌舞伎役者のように、机の上に片足を乗せて両手を大きく広げた。

「おれと女神の間にッ! 電流が走ったのであぁぁぁるッ!」
「キャー! ビビッときちゃったぁー!」

 再び両手足をじたばたさせるヨネ。おれらの甘酸っぱい恋物語に“萌え”を感じて悶えとるんやな。

 そう。これは運命。出会うべくして出会った2人が触れ合った瞬間、体に感じる“何か”……そう、これぞまさしく! 宮城県産ひとめぼれ! ……ってそれは米やないかーいッ!
 米ちゃうッ! ひと目見た瞬間から惚れるッ! つまりHITOMEBORE! love at first sightなのであるッ!

「ビビビッ! ってきたで! 指先が触れた瞬間ッ! バチっときたんや! 女神もハッとした顔をして、頬を赤らめながら手を引っ込めた……いやっ! 恥じらいッ! キュンッ!」
「キュンッ!」

 更に盛り上がるおれとヨネ。するとヒデが顔を上げて、ポツリと呟いた。

「それ……静電気じゃ……」

 一瞬の静寂が、部屋を包み込んだ。