「……アリガトウゴザイマス。つーか何この飲み物」
「私と一佐くんの特製ミックスジュースでぇーす!」
「……何をミックスしてんだよ、こっちは……」

 浅尾っちは無表情のまま、鮮やかなグラデーションが美しいミックスジュースを指さす。それはおれが作った方やで!

 ブロッコリーとニンジンとチンゲン菜とモロヘイヤとブルーベリーとリンゴとオレンジと……あとなんやったかな。とにかく、浅尾っちの健康を考えた究極のミックスジュースなのであるッ!

 そして普通に混ぜるだけやとつまらんから、それぞれの素材の色を活かして層を作ったんや。おれらは芸術家やしな!見た目も重視せなあかん!

「浅尾っちが飯食われへんっちゅーから、栄養バランス考えたんや!飲んでみてくれッ!」
「味見は?」
「してへんッ!」

 一瞬、浅尾っちの眉毛がピクリと動いた。

「ノープロブレムやで浅尾っち!ぜぇんぶ新鮮な野菜と果物やさかい、マズイわけあらへんッ!きっとッ!」
「お前、相性って知ってるか?」
「愛で包み込めばオールオッケーなんやでッ!さぁ!おれらの愛をその身に注ぐがよいッ!」
「注ぐがよいー!」

 両手を広げてポーズを決めるおれとヨネを、浅尾っちがジッと見つめてくる。
 の、飲んでくれへんかなぁ……怒っとるんかなぁ……?
 
「浅尾……一佐とヨネも一生懸命考えて作ってくれたみたいだから……」
「分かってるって」
 
 ヒデの言葉に、浅尾っちが頷く。

「それ自体は嬉しいから、ありがたくいただくよ。ベトナムでゴキブリ食っても腹壊さなかったし、まぁ大丈夫だろ」
 
 そう言って、おれの愛が詰まったミックスジュースを手に取った。
 う、嬉しいやて……ありがたくやて……!あかん、感激で心の涙がナイアガラや……って、今サラッとゴキブリ言うたか?なんちゅー経験しとんねん。

「これ混ぜた方がいいのか?」
「せやな!ミックスジュースやしな!」
「セルフなわけね」

 ストローでぐるりと中身をかき回すと、ほぼ緑色の液体になった。浅尾っちは躊躇することなく、それを一気に半分ぐらい飲み干す。漢気やわ。

「お、意外とウマい」
「ほほほほんまかッ!?」
「ミックスジュースっつーか、野菜ジュースって感じだけどな。1日分の栄養摂れそうだわ」

 無表情やけど、声はめちゃくちゃ柔らかい。こんなん惚れてまうやろ。ヒデが言うてた通り、やっぱ優しいんやな。
 それから浅尾っちはヨネが作ったオーソドックスなミックスジュースも飲み干して「ごちそうさまでした」と手を合わせた。

「両方ウマかったよ。長岡も、ありがとう」

 笑顔を見せることはなかったものの、おれら3人に丁寧に頭を下げて浅尾っちは去って行った。
 ヒデ&ヨネと顔を見合わせる。喜んでくれたで。あの浅尾っちが、喜んでくれたんやでッ!

「PASSION and LOVE大作戦……大成功やー!」
「やったぁー!だーいせーいこーう!」
「よ、良かったぁ」

 3人でハイタッチや!余ったクラッカーも鳴らしたろ!

 ここだけの話、味には自信なかったんや。体にええもんは不味いっちゅーのが先人の教えやろ?せやけど、おれの愛が奇跡を起こしたんやッ!

 この日を境に浅尾っちがにこやかに話しかけ……てくることもなく、相変わらず無表情やし素っ気ないが、近寄るなオーラは消えたと思う。一佐流オープンザハートが効いたんや。

 藝大ライフは、まだ始まったばかり。今回の作戦で育まれた絆を大切に過ごそう。天才小林は、そう心に誓ったのであったッ!