「あ、おっつぅー」

 しばらくすると、ヨネがゆる~く登場した。一瞬にして場の空気が和むな。

「ヨネお疲れぃ!英語の講義どやった?」
「おもしろかったぁー!やっぱり英語は必要だしねー頑張って受講するよぉー」
「せやな。喋れんより喋れる方がグローバルに活躍できるしな!」

 ん?そう言うおれは英語の講義を受けんのかって?ふふふ……何を隠そう、この小林はバイリンガルなのであるッ!驚いたか?意外か?

 何故バイリンガルなのかというと、物心つく前からネズミの国の英語教材に親しんでいたからや。天才児ゆえにギュンギュン吸収し、その後は英会話教室へ通い続け、更に姉やんの“すきぴ”やったイギリス人とコミュケーションを取ったことで、Bilingual KOBAYASHIが誕生したのであるッ!

「ねぇねぇ浅尾きゅんってー外国語なにか取るのー?」

 お、ヨネがさっそく色仕掛け作戦を開始したか。おれにも少し心を開いてくれたみたいやし、今の浅尾っちならイケるで。ほれ、ちゃんと顔を向けとる。
 
「中国語の中級」
「へぇー中級ってことはーそこそこできるんだねぇー!でも英語とかフランス語は取らないのぉー?」
「どっちも喋れる」

 なぬ!?まさかのトリリンガルやとッ……!?どんだけハイスペの頂点目指すねん浅尾っち!キングオブハイスペやん!かっこええッ!
 
「他にもスペイン語とかイタリア語もあるのにぃーなんで中国語選んだのぉー?」
「だから、もう喋れる」
「ちょいちょーいッ!一体何ヶ国語喋れんねんッ!」

 おれが思わずツッコミ入れると、浅尾っちは一切表情を変えずこっちを見た。

「……英語、フィンランド語、フランス語、イタリア語、スペイン語。ドイツ語と中国語は勉強中」

 ……ほんまに人間なんか?少女漫画の世界から飛び出してきたんちゃうか?浅尾っちのハイスぺぶりに、ヨネが目を輝かせた。
 
「わぁーお!マルチなリンガルだぁー!かぁっこいいー!ところで浅尾きゅんってー欲しいものあるのぉー?」

 なんやその脈絡のない話題の振り方はッ!見てみぃ!浅尾っちが怪訝な顔しとる……いやッ!めっちゃ無表情やったッ!
 
「……ひとりで静かに絵を描く時間」

 浅尾っちは抑揚のない声でそう言った。“ひとりで”ってところを強調したように聞こえたんは気のせいか?

 せやけど、くノ一ヨネはめげない。分かるぅ~と共感しつつ、分かっとらんふり?をしてマシンガントークを展開しはじめた。なかなか強いな。

「……でー、浅尾きゅんの好きな食べ物ってなぁにー?」
「マカロン以外」
「マカロン嫌いなんだー?」
「砂糖の塊食ってるみてぇじゃん。気持ちわりぃんだよ」
「見た目可愛いじゃないー」
「見た目だけ可愛いものなんて興味ねぇよ」

 おぉ……いつの間にか普通に会話が成り立っとる……!
 ほら見てみぃ、百合ちゃん。おれらもああやってコミュニケーション取っていこうや。そいで仲良うなろうや。な?……あかんか。うぅん、いけずぅ。