「え、浅尾の彼女?」
「あんだけかっこよけりゃ、おるよなぁ?」

 ヒデが眉根を寄せて首を傾げた。

「うーん、いるらしいって噂はずっとあったけど……本人からは何も聞いたことないから」
「え、恋バナせぇへんのか?青春の会話やん!?」
「言ったじゃん、浅尾は自分のこと喋らないんだよ。俺が彼女いないって話をしても、ふーんって言われるだけで終わるから。それ以上、会話が発展しなくてさ」
 
 高校生の会話ゆーたら、9割9分8厘が恋バナやろ。まさか恋愛に興味ないんか?いやいや、そんなわけないよなぁ。浅尾っちは秘密主義なんか?うーん、ほんまミステリアスなお人やわ。

 ん?前作を読めばわかるやて?おれはリア充満載の恋愛小説は読まんのやッ!他人のラブラブな姿とかいらんねん!どうせ浅尾っちは天使みたいな彼女とチュッチュしとるんやろッ!キーッ!

「ていうか、一佐はやたらと浅尾のこと気にかけるね」
「なんや知らんけど、めっちゃ気になんねん。初めて会うたタイプっちゅーか、妙に不思議な魅力があんねんなぁ」
「まぁ、独特な雰囲気はあるしね。でも基本的に単独行動だし、自分から話しかけることってほとんどないんだよね」

 どうやら無口で目つきが悪い浅尾っちは、高校の時から周りの連中に怖がられとったらしい。
 せやけど描く絵のレベルは群を抜いとるさかい、畏敬の念っちゅー感じやったとか。まさに孤高のカリスマってやつやん?めっちゃかっこええやん?

「こりゃ絶対彼女おるで!孤高のカリスマの理解者が!そっと見守る健気な彼女が!」
「まぁ、いそうな感じはするけどね。女性と歩いているのを見たっていう人もいたし」
「ほうほう!それはどんな女性や!?」
「あ、あくまでも聞いた話だよ?黒髪ロングのクール美女……だって」

 ほらなー!絶対浅尾っちの彼女は美女やと思たわ!孤高のカリスマに寄り添う黒髪美女……いやッ!絵面よすぎッ!バーで語り合ってそうやん?バーボンとか飲んでそうやん?あちらのお客様からです……ってやつやん?

「いや未成年やっちゅーねんッ!」
「な、なに?」

 おっと。心の声が漏れとったわ。ヒデを驚かせてしもたな。
 
「いやいや、浅尾っちは大人っぽいなぁと思っただけや。ほんまに18歳なんやろか?あれは30代くらいの色気やで。知らんけど」
「数日後には19歳だよ」

 ヒデは結構ツッコミが細かい。別にええがなってことを、きちんと正しく訂正してくる。
 せやけどそれは人の間違いを正したいからやない。ただ几帳面な性格っちゅーだけや。頭ボサボサで野暮ったいくせにな。

 ……ん?ちょっと待てや。数日後やて?19歳やて?

「もうすぐ誕生日なんか!?浅尾っちは!」
「うん。18日だよ」
「来週やないかッ!パーリーせなあかんわ!」
「ぱ、パーリー?」
「誕生日パーリーや!」

 これや!これこれ!浅尾っちとお近づきになる方法!誕生日を祝われて嫌な気持ちになるヤツはおらんやろ!みんなで盛大に祝って絆を深めるんや!