「旭陽。ナイスホームラン!」

球場を出ると、莉音さんがいた。

大学2年生になる莉音さんは、長かった黒髪をバッサリと切って茶髪に染めており、随分と垢抜けて、大人びて見えた。

「来てたんすね。あざす」
「甲子園決まったんでしょ!?もっと嬉しそうにしなさいよ!可愛くないなあ」

トンっと軽い力で、肩を叩かれる。

美人で大人っぽいイメージを崩す、無邪気な笑みは昔から変わっていなかった。

綺麗な莉音さんと可愛い澪音は、あまり似ていない。
だけど、周りを華やかにする無邪気な笑顔だけは、昔も今もそっくりだった。

鮮明に思い出される彼女の面影を探し、俺はキャップを被り直した。
莉音は、見透かしたように優しい目で俺を見つめる。

「澪音も来てるよ、きっと。旭陽の活躍、ずっと見たがってたからね」

その切ない表情は、一瞬で俺を当時の気持ちに引き戻した。
消えたわけではないのだ。彼女がいないという苦しみは今もまだ心を締め付ける。

「旭陽。笑って」

彼女のような口調で、笑顔で、そう言う莉音さんはずるい。
柔らかく口角を緩めると、莉音さんは嬉しそうに空を見上げた。

苦しいくらいに快晴の空。
眩い太陽に澪音を探すのは、莉音さんも同じようだった。

「すげーよ、澪音」

どうしようもない喪失感も遣る瀬無い気持ちも、消えたわけじゃない。
それでも腐らずに歩き続ける原動力は、最期の最期まで、笑顔を失わなかった彼女が残した、淡く美しい初恋の思い出だった。

空を見上げれば、自然と笑みが零れる。

見てろよ澪音。心配なんてさせねーからな。

快晴の空は、今となっては澪音の笑顔と同義なのだ。

そう語りかけると、ふわりと温かい気持ちに包まれる。

まるで、澪音に包み込まれているように。
強く、温かい気持ちに。