莉音さんから連絡を受けたのはお昼頃だった。

朝方に眠った澪音を見届けて、1度家に帰ってシャワーを浴びた。それからほんの少しだけ仮眠をとって。

あれからほんの数時間だ。知らせの意味を俺は全く理解できなかった。

またすぐに、会いに行くつもりだった。

次、澪音が目覚めたときに、そばにいられるように。
安心すると言ってくれた澪音を、抱きしめるために。

だけど、その次はもう来ないらしい。
目の前で、いつも通り寝ているようにみえる澪音は、もう、目を覚まさないのだと言う。

ついさっきまで楽しそうに話して、病気なんて感じさせないほどに元気だった。
今日は調子が良い日なんだと思って、昼は庭へ出られるかななんて考えていた。

「澪音……なんで……?昨日はあんなに元気だったのに……」

悔しそうに泣きつくお母さんを、少し離れて見つめるお父さんと莉音さんの姿に、俺は立ち尽くす。

悪い夢をみているみたいだった。
頭がふわふわとしていて、ここが現実という確証が持てない。

眠っている澪音の口は、未だ呼吸をしているように見えて、俺は震える足で、澪音の元へと近付いた。
触れた澪音はまだ温かかった。

「……澪音?澪音、起きろよ。……なぁ」

肩から腕をさすっても、ピクリとも動かない澪音に、俺の心臓はずっと不愉快な音を立てる。

「旭陽」

後ろから、莉音さんに支えられて、澪音から離れた。
泣きわめくほども、受け入れられてなかった。

医者が言うんだから、間違いないのだ。
だけど、勘違いだと、心のどこかで思っていた。

「莉音さん、俺らさっきまで。」
「うん。あれが最期だったの。あのまま、目覚まさずに……っ、いっちゃった」
「そんな……」

もう一度眺めても、今にも目を開けそうな澪音。

「私達、ここにいたのに気付かなかった。いつ、息を引き取ったのか分からないの。それくらい静かで……」

莉音さんは顔を歪め、俺を支える手に力が入る。

「最期に見せた姿が、元気な姿なんて。澪音らしいよね」

震える声の莉音さんに、俺は頷き、ただぼんやりと、澪音の顔を見つめていた。