「朱里、そのボール、とって」

私の声に、朱里は顔を上げて、鼻をすすりながらボールを拾ってくれた。

「やっぱ、野球をしてる旭陽は、最高だね。自分勝手に旭陽を巻き込んで辛い思いさせて申し訳ないけど、あの笑顔を見られてよかった。私、絶対忘れない」

楽しそうに野球をする旭陽の笑顔に少しだけ、安心をした。
朱里は、私が左手で持っていたボールに手を重ねる。

「旭陽、言ってたよ。真っ直ぐな澪音を見ていたら、逃げている自分が嫌になった、って。だから、野球もまた始めるって言ってた。大輝が推薦で決まってる高校に普通入試で受かるために勉強も頑張ってるって」

右手には莉音ちゃんの手が重なり、柔らかく包み込まれる。

「自分勝手だけじゃないよ。旭陽にとっても澪音と関わったのは良い方向に進むきっかけになってる。澪音、いいことしたんだよ」

その温かい手に微笑み返して、大好きな二人の手のひらに、ぎゅっと力を込める。

「笑顔が、いちばん嬉しいんだ……。こんなこと言って酷いかもしれないけど、みんなには笑っててほしいの」

朱里も莉音ちゃんも、微笑んでグラウンドに視線を戻した。
念願叶った野球観戦は、私の心を少し救われた気持ちにさせてくれた。