「澪音」
「あ、え……?」

突然、横から顔を覗かれ、私は驚いた。

「久しぶり」

そこには、変わらない様子の、大輝と朱里がいた。
2人には結局何も言えないまま夏休みに入ってしまい、連絡も返せていなかった。

私は、言葉を返すこともできず、自分の腕に触れる。

最後に学校に行けたのはいつだったか……。

きっとその頃よりもずっと痩せ細っている私の体と、車椅子。
どうしたって言い訳の出来ない状況に、私は笑顔さえ忘れて、ただ固まっていた。

「旭陽の野球なんてほんっと久しぶりだね」

沈黙を壊した朱里は、グラウンドの旭陽を眺めていた。
その横顔が私を捉え、にこりと微笑まれる。

「うん。どうしても、旭陽の野球する姿が見たくて」
「俺も。部活はやり切ったし楽しかったけど、旭陽がいたらなってずっと思ってた。今日超楽しみだよ連れてきてくれてサンキュ!」

大輝の笑顔も変わらない。
何も聞かない二人の笑顔が、苦しかった。

穏やかに会話をする私たちに、莉音ちゃんは静かに席を立って離れて行った。

「草野球に誘ってくれたの大輝なんでしょ?大輝こそ、ありがとう」
「うん。旭陽と野球がしたかったからさ」
「大輝のおかげで、旭陽はまた野球が出来るんだ」

グラウンドを見つめる大輝は、心から嬉しそうな表情をしていた。