そして、約束の日。
私は夏祭りの夜以来、初めて家の外へ出ていた。

「晴れたね」
「ね。野球日和。お弁当も楽しみだね」

玄関の外で車いすを押してくれる莉音ちゃんと、穏やかな会話をする。
朝方お母さんと莉音ちゃんで作っていたお弁当。

私もベッドで少しだけお手伝いをして、可愛らしく出来上がっていた。

「うっす。おはようございます」

家から出てきた旭陽は、ラフな運動着姿だった。

「え、ユニフォームじゃないの?」
「草野球でそんなんないっすよ」

莉音ちゃんと言い合う旭陽は、後輩っぽくてなんだか可愛い。

「澪音、今日は体調は?」
「大丈夫。楽しみにしてたから」

笑顔を見せると、旭陽はほっとしたように眉を下げて笑った。
外へ出ることなんてないから、きっと不安なんだろう。

それを隠すような笑顔に、私はにこりと微笑み返した。

「お!旭陽来た来た!」
「うーっす!」

グラウンドのベンチで車いすを止めてもらい、旭陽を見つめる。
旭陽は、入った途端に多くの人に囲まれて笑っていた。

「お前、誘ってから全然こねーんだもん、振られたと思ったわ!」
「旭陽さん!お久しぶりです!」
「え、お前部活もあんのに、草野球きてんの?野球好きすぎんだろ!」

先輩や後輩に囲まれて話す姿は、高校生活でよく見たクラスの中心にいる旭陽と重なって、懐かしい気持ちになった。