小学校4年生の頃、身体に癌が見つかった。

「ちょうど、旭陽と話さなくなってすぐだったかな」

当時は、癌の怖さなんて全く知らず、ただ病名として素直に聞き入れた私。
だけど、診断を受けて戻って来た父母の絶望した表情に癌という病気の怖さを察した。

当時、中学受験を控えていた優秀な莉音ちゃんも、勉強そっちのけで私のお見舞いに来ていて、ほぼ確実だった大学付属中学の受験を諦めた。
正直、自分が癌になったことではなく、私の病気によって崩れていく家族を見ることが、幼い私には苦しいことだった。

「私、必死でね。治るためにならなんでもしなきゃって思ってた。だから、学校も潔く通信制に変えて、治療に専念するために、遠くの大学病院へと転院したの。旭陽が転校って聞いてたのはそれで……」

旭陽は、辛そうに顔をしかめた。

「ごめん、俺、知らなくて」

そんな顔をさせてしまうことが申し訳なくて、私は小さく口角を上げる。
「大丈夫だよ」と、そう伝えるために笑顔を作るのはあの頃からの癖になってしまっていた。

「早く良くなりませんか?私、早く治したくて!」
「ねえ!こういう治療があるんだって!がんばろっかな!」
「手術?全然怖くないよ!絶対成功するし!私強いし!」

家族の笑顔のために、子供ながら必死だった。
明るく前向きに、自分の気持ちさえ見失ってしまうほど、必死で毎日を過ごしていた。

「澪音!よく頑張ったね!」

癌が完治して退院した日に見えた家族の笑顔は、私が願った笑顔そのもので。
凄く凄く安心したのを覚えている。

その日からは、治った私を祝うように、できなかったことをたくさんした。

2カ月に1回は旅行へ行ったし、遊園地や水族館。
思いつく限りの行きたいところへ行った。

行く先々で「来れて良かったね」と幸せそうに笑う家族が嬉しかった。