少しの間を置いて、莉音ちゃんの声が響いた。

「澪音、聞こえた?」

小さく開かれたドアに、覗き込む莉音ちゃん。
私は涙でぼろぼろの顔で、莉音ちゃんを見つめた。

「話してみたら?旭陽は大丈夫だよ」
「……っ、でも」

それでも覚悟が決まらない私が燻っている間に、莉音ちゃんの後ろから伸びてきた手が、ドアを更に広げる。

「澪音。話そう」

その真っ直ぐな声に、私は涙で溢れる顔を両手で覆った。

「お母さん買い物行くよね?旭陽、ついでに留守番頼める?」

気遣った莉音ちゃんによって、家は旭陽と私の二人きりになった。

しばらく沈黙の時間が流れる。

ぐるぐると考えながらも、もう逃げられない状況に私はなけなしの覚悟を振り絞ってぽつりと口を開く。

「私、余命が宣告されてるの」

前置きもなく呟いた。
旭陽は一瞬瞳が揺れたけど、私の隣に静かに腰を下ろす。

「余命って、えっと、」
「去年の2月に、持ってあと半年だって。もう7月だから、いつ、何が起きたっておかしくない」

核心的なひとことを言ってしまえば、驚くほど心は落ち着いて私は彼を見据えていた。

「どうにもならないのかよ」
「うん。私ね、小4のとき癌になったの」

気付けば涙も収まり、驚く旭陽に笑いかけながら、当時のことを話し始めた。