「あのね、旭陽くん。澪音には澪音の想いがあるの」

静まり返ったリビングで口を開いたのは、それまで無言を貫いていた母だった。
私は驚いて、閉められたドアを見つめる。

「それを私達の勝手で崩すことは出来ないから。とりあえず今日は……」

冷静に大人の口調で伝える母。
泣いてばかりの母を悲しませたくなくて、ずっと気を張っていたけどそんな必要はなかったのだと思い知る。

「俺は、思いがあるならその思いを知りたい。俺、澪音が好きなんです」

突然の宣言に、私は驚いて体を起こした。

花火大会の日のことは、あまりにも都合の良い出来事すぎて、私は半分夢なんじゃ無いかと思うようになっていた。
改めて、自分のいない場所で思いを告げた旭陽に驚きが隠せない。

「振られたけど、気持ちは変わってません。今思えば、昔からずっと惹かれていたと思います。
俺なんかより、真っ直ぐで少しも濁っていない澪音の心に、ずっと憧れています」

聞いたことの無い旭陽の言葉に、私は涙が堪えられなかった。

「……なに、それ」

思わず、閉じられた扉の前で小さく呟いてしまう。