「わあー!屋台!」
「別に、そんな感動することじゃねーだろ」

屋台の連なる通りに入り、感嘆の声を上げた私に旭陽は呆れた声を出す。

「だって!懐かしいんだもん!どうしよう食べたいものもやりたいこともたくさん!全部やろう!旭陽!」

そう言って、私は旭陽の手を取った。
思い切った行動だったから、顔が火照って旭陽のことは振り返れない。

されるがままだった旭陽の手は、くるりと私の手の中で形を変えて、5本の指と指が交差した。
赤くなる顔を隠すように、私はそっぽを向いて屋台を眺める。

「わー、いっぱいあって最初は悩んじゃうな」
「全部やるんだろ?迷ったらいけばいいんじゃね」

そんな声が聞こえて振り返ると、旭陽は楽しそうに口角を上げていた。

「さっすが旭陽、ついてきてね」

それから、私たちはとにかくたくさんの屋台を練り歩いた。

りんご飴に、たこ焼き、焼きそば、イカ焼き、冷やしパインに、ベビーカステラ。

食べられないことなんて忘れて、次から次へと屋台をまわった。
買うのは1つだけにして、旭陽と一緒に食べたから、色んなものをひと口ずつ楽しめた。

満腹になったあとは、わなげやひも引き型抜きをして遊ぶ。

「澪音、金魚すくいは?好きだったよな」

金魚すくいの屋台を通り、振り返った旭陽に、私は首を横に振る。

「きっと、お世話出来ないから。あ、スーパーボールすくおー!」

不思議そうな顔をした旭陽を誤魔化すように、私はまた屋台を見渡す。
そして花火が始まるほんの10分前まで私たちは屋台を楽しみ尽くした。