「浴衣着たかったのに……」
「浴衣はだめ。少しの時間ならいいかもしれないけど、外に出るんだから。お腹締め付けるから絶対だめ」

当日、不思議と私の体調はここ最近で一番良好だった。
薬の効きも良く、朝早くからリビングでお母さんと言い争っていた。

不満げに見つめるも母も譲る気はないようで、見かねた莉音ちゃんが可愛い花柄のワンピースを持って間に入る。

「服貸してあげるから、浴衣は諦めな。これとかどう?夏っぽくてよくない?」

莉音ちゃんが持つワンピースは、悔しいけど私のタイプど真ん中で、唇をとがらせながらも私は頷いた。

「ありがとう、莉音」
「うん、任せてよ」

母と姉の会話なんて聞くことも無く、私はそのワンピースに身を包み、髪やメイクを莉音ちゃんに手伝ってもらいながら完成させた。

家の前に着いたとのメッセージを受け取り、私は家の扉を開ける。
家の塀の前に旭陽はいた。

「旭陽の私服。久しぶりに見た」

思わず呟いてしまう程、新鮮でかっこいい姿。

「そっちこそ」

旭陽も、どこか恥ずかしそうにこちらを見て呟く。

「……行くか」

ふわふわそわそわした気持ちで歩き出した私達。
私は小さく微笑む。

旭陽と手を繋ぎたい。

そんな感情が湧き出して、旭陽に恋をしているのだと改めて自覚した。
恋の胸の高鳴りは、苦しいくらいに生きていることを実感する。