「え?じゃあ、野球やることにしたの!?」
「高校入ったらな。でも大輝も引退したし、休日の草野球に参加しようって言ってるだけ」

旭陽と一緒に帰る道の途中、私は驚いて旭陽を見上げる。

私が休んでいる間に、旭陽にはなにか心の変化があったみたいで嬉しかった。
野球が大好きで、大変そうな練習に必死で食らいついていた少年クラブ時代の旭陽を思い出し、頬は緩む。

「それでも嬉しい。都合合う時、見に行きたいな」
「見ても楽しくねーだろ」

照れ隠しの冷たい言葉は、寧ろポカポカ温かくて。
私は、ふふ、と笑いを零す。

「……いっ…た」

視界には家の屋根が見えて、もうほんの少しというところで、身体の痛みが酷くなっていた。
ゆっくり歩くので精一杯になり、顔を歪める。

「澪音?どうかした?」

歩みが遅くなった私に、旭陽はすぐに気付いた。
私は口角を上げて、適当に誤魔化す。

「ううん、なんかちょっと、筋肉痛で」
「はあ?運動不足かよ。野球一緒にするしかねーな」
「だね。入れてもらおうかな」

信じてくれた旭陽に安心しつつ、私は息切れがバレないように小さく呼吸を繰り返した。
思い通りに動かない身体に苛立つこともあったけれど、それもまあ仕方ないと受け入れられている自分もいた。

旭陽とこんな風に下校ができている。
私の願いは、もう十分に叶っているのだ。

私の家の前まで来て、足を止めた旭陽。
すぐ隣の家が旭陽の家なわけだけど、私を送り届けてくれるみたい。

「じゃあね?また明日」

守れないかもしれない約束をすることにもすっかり慣れてしまった自分がいる。
罪悪感はあるけれど、こんなにいも重たい真実を伝えるよりはずっとマシだった。