「朱里、いつまで泣いてんだよ」
「だって……悔しい……っ!大輝もみんなも頑張ってたのに……!」

最後まで全力で戦った彼らだったけれど、結局逆転は叶わず大輝の夏は終わった。
後輩も監督も応援も全員が涙を流すような時間に、大輝は一度も涙を流さず、後輩にかっこいい姿を見せ続けていた。

「ばかだなー。そこは、最後までやり切ったからお疲れ様でいいんだよ」

泣き続ける朱里に困っていると、引退式も終えた大輝が現れて、優しく朱里の頭に触れた。
朱里はますます大粒の涙をこぼし、大輝に頭を預ける。

苦笑いを溢す俺に、大輝も小さく笑った。

「旭陽も、ありがとな。来てくれると思わなかった」
「いや、かっこよかったよ。お疲れ」

悔しいとか、自分とは違うとか、そんなこと思えないほどに大輝は輝いていた。
素直に出た言葉に、大輝は目を丸くして突然、朱里から離れて背を向けた。

「……お前、まじでふざけんな」
「は?なにが」

背を向けた大輝の肩が震えていることに気付き、俺は言葉を止める。
涙が止まった朱里が驚いたようにこちらを向き、俺も何も言えずにその背中を見つめた。

「お前みたいに、なりたかったんだ」

それまでずっと泣かなかった大輝が、泣いていた。

「旭陽には敵わない。どのポジションをやらせてもすぐに要領を掴んで誰よりも上手くなる努力もして。後輩だって、旭陽に憧れてるやつばっかりで」
「はぁ?何言って……」

涙も隠さずに振り返った大輝は、勢いよく俺に抱きついた。

「だから、憧れたやつにそう言われるのが一番来るんだよ」