6月末。

活気のある吹奏楽部の音と、声を押し潰すような大きな応援の声が響くグラウンドに俺は顔を出していた。

「あっ!旭陽!遅いよ!」

応援席の階段を降りると最前の一番良い場所で手招きをする朱里を見つけ、俺は思わず顔をしかめる。

ただえさえ、野球部の部員の目に触れたくなくて時間を遅らせたというのに、そんな特等席行けるわけねーだろ。

彼氏の一世一代の大舞台にそんな気遣いは消えたのか、早く来いと言わんばかりの朱里の圧に負けて、俺は諦めて階段を降りた。

「負けてんの?」
「そうなの…!」

朱里が指を差したスコアボードに目を細める。

対戦校が2点リードしているスコアで、大会の状況を確認する。
試合は9回の表で、こちらの攻撃だけど、2アウトランナーなし。

厳しい局面に、野球部のメンバーも表情を暗くしているのが見てとれた。

「大輝ー!!がんばれー!!」

朱里が声を張り上げると、大輝は顔を上げ隣に立つ俺を見て、眉間の皺を伸ばした。
驚いたような丸い目に、目を逸らしそうになったけれど、グッと堪えて小さく拳を上げた。

「さんきゅ」

きっとそう動いた口はすぐにぎゅっと閉じられ、集中力が伺える。

バッターボックスに立った大輝の後ろ姿は悔しいほどにかっこよかった。
後輩に慕われるのもわかる。キャプテンを任されるのもわかる。

最後までやり切ったやつの後ろ姿だった。
投げられたまっすぐな投球に、大輝の綺麗なフォームが動く。

気持ちの良い音を立てて、バットにボールが当たった。