「ねえ、澪音も行くよね?」
「もちろん!大輝の晴れ舞台だもん!行くに決まってんじゃん!」

近くの席から、朱里と澪音の楽しそうな声が聞こえてきた。

6月中旬から、最後の大会が始まる。
市大会から強豪の集まる俺らの地域で、勝ち残るのはかなり難しい。
だからこそ、初めの市大会から応援の気合が入るのは、3年間通して恒例のことだった。

「負けたら引退って、なんか切ないよね」
「分かる」

俺は退部してからすぐに適当な部活に入ったけれど、澪音は何の部活にも所属していない。

俺が知っている澪音は活発でなんでもやりたがるような性格をしていたはずなのに、どうして入らないんだろうと当時も疑問に思ったけれど、その頃の俺らはそんな会話をする関係でもなく。

その真相は知らないまま、引退の時期を迎えていた。

俺らバレー部は、きっと市大会の1戦目で敗退する。
そんなに頑張ってもいないし、当然のことだから悔しくもない。

だけど、グラウンドで暑くなりながら練習をしている大輝は酷く輝いて映っていた。

「ねえ、旭陽も一緒に見に行く?」
「あー、市大会は、バレーと同じ日だし。地区大会かな」

声を掛けに来た澪音から視線を逸らす。

ぼんやりとしか返せなかったのは、俺に大輝の姿を直視する勇気がなかったから。

自分で選んだ道なのに、どうしたって比較して卑屈になってしまう自分が苦しかったから。

「そっか。じゃあ地区大会は一緒に見よう!」

ほんの少し表情を暗くした彼女はきっと、俺の気持ちを察していた。
直接的には話すことはなかったけれど、野球が大好きだった頃の俺を一番近くで見ていたのは澪音だから。

「そうだな」

そう小さな声で返すと、澪音は控え目に笑って、また朱里のもとへと帰って行った。