時間が遅くなるにつれて、少しずつ人数が減っていき、教室は静かになっていった。

先生へと放課後活動の報告に行った澪音が帰ってくるのを待っている間に、教室は俺一人になる。

道具は片付けてしまったため、静かにスマホゲームに打ち込み、澪音の帰りを待っていた。

人の気配を感じてゲームから目を離すと、気付かないうちに戻ってきていた澪音が、俺の目の前に立っていた。

「旭陽!ありがと!」

突然飛び込んできた満面の笑みに、慣れ親しんだゲームの手元が狂った。

「……は?ってうわ、ミスった」

久しく見ていないゲームオーバーの画面に動揺しながら、澪音に視線を移す。

「旭陽のおかげで準備順調に進んでる!今日もフォローしてくれてたでしょ?嬉しかった!」

飲み込まれるような笑顔に、俺は一瞬息をするのを忘れた。

その瞬間に、過去を思い出していた。

ああ、そうだ。澪音、変わってない。

昔から、素直じゃない俺の小さな行動を、そこに込められた意味を、真っ直ぐ受け取ってくれるのが、澪音だった。

勘違いされやすい俺を、ありのままで理解してくれる。
素直になれない俺に、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。

それが嬉しくて、澪音といると毎日楽しくて、自然と多くの時間を一緒に過ごしていて。

幼馴染なんだから、一緒にいるのなんて当たり前だと思っていたけれど、もしかしたら違ったのかもしれない。

一緒にいたいと思うのも。
毎日心の底から楽しいと思えていたのも。
急にいなくなった彼女に、酷く憤りを憶えたのも。

もしかしたら、幼馴染だから、ではなかったのかもしれない。

「は?勘違いじゃねーの?」

突然、新鮮味を帯びて現れた彼女への恋心。

意識した途端に、顔が熱く火照って、また素直じゃない言葉を繰り返す。

「うん、そうかも!でもありがと!」

それもすべて分かっていると言わんばかりにお礼を言い、満足そうに自席へと戻る澪音。

彼女の背中がどうしてか愛しく見えた。

その感情はみるみるうちに、もう離れてほしくない、捕まえていたい、抱きしめたい、と形を変え、俺は頭を抱える。

まさか、5年越しに、初恋に気がつくだなんて、思いにもよらなかった。