「なぁ、進んでる?」

足踏み状態が続き、自然と地面に傾いていく私の頭を上げさせたのは、教室から聞こえてきた旭陽の声だった。

「えー、旭陽じゃん、進むわけなくね?てか遊び行こうよ!」

部活に入っていない旭陽は、この女の子たちと一緒に遊ぶことも多かったはず。
そんな旭陽からの声掛けにどこか嬉しそうに女の子の声は高さを変えた。

「はぁー!?終わらせなきゃ俺が困るんだよ!ほら一緒にやるぞ!」

声が近くなり、旭陽が女の子たちと一緒に作業を始めたことが分かった。

「なんで?旭陽そういうタイプだっけ!?別に良くない?だって澪音は抜けてんじゃん!」

聞こえてきた愚痴に、やっぱり私のことだったと分かり、心臓が掴まれたように苦しくなる。

だけど、旭陽が声をかけてくれてよかった。
私が入っていたらきっとさらに揉めていた。

「大事な予定あんだって。予定終わったら戻ってくるって言ってたし、それに、休み時間も帰ってからも働いてんだから、力になりたいって思うじゃん。あんなに真剣な奴いたら、頑張ろって思わねえ?」

そのまま聞いていると、旭陽のそんな言葉が聞こえてきて、私は思わず声の方をを振り返った。

振り返っても、廊下にいる私には、教室と廊下を隔てる壁しか見えないのだけど。