旭陽が来るからと気合を入れてたくさん買われた食材。

最初の数切れは美味しかったものの、胃の不快感が苦しくて、私はすぐに箸を置いた。

それからは、食べることは無かったけれど、お肉を焼いたり飲み物を入れたりして楽しく過ごしていた。

「なぁ、全然食ってねーじゃん。焼くの変わるよ」
「え?いいよ……」

気づいたら隣に立っていた旭陽に驚いた私は、自然体になれずに強ばった言葉を返す。

旭陽も旭陽で、不自然に視線を泳がせながらも私の手から強引にトングを奪い取った。

「ほら」

お皿に取られたお肉を見つめ、私は眉を下げた。

「私お腹いっぱいなの!ほら、実は旭陽が来る前にいっぱいつまみ食いしちゃっててさー」

適当な言い訳だった。
旭陽は、訝しげに眉をひそめ私を見つめた。

「食い意地はってんのは相変わらずか」
「ばっ!最低!そんなことないし!」
「あははっ、うるせえよ」

昔へと時間が戻っていた。
くだらない言い合いをして笑いあった。

売り言葉に買い言葉で、思わず手を振りあげた私の腕を、旭陽の手のひらが包み込む。

腕に大きな手のひらが触れた途端、私ははっと正気に戻った。

大きくて、骨ばった手だった。
小学4年生の頃とは違う、明らかに変わった男の子の手に、私は動揺していた。

不自然に鎮まった私に、旭陽もぱっとその手を離す。

「冗談だよ、腕細すぎんじゃね、もっと食えよ」

意地悪で、私のことなんてからかってばかりだった旭陽が、まるで女の子扱いのような言葉を呟く。

視線を逸らしたその横顔が、素直になりきれない照れ隠しに見えて、私の胸は苦しいほど大きく高鳴っていた。