「それで昨日、推しがバラエティに出てたんだけどね?」

すぐ隣で聞こえる友人の話もそこそこに、私は笑い声が響く教室の中心を見つめていた。

「なあ、これ本物みたいじゃね?」
「きもすぎんだろ、何持ってんだよ」
「これで、旭陽ビビらせようぜ」

今この瞬間、大きなムカデのレプリカが、クラスの人気者である旭陽(あさひ)の首筋に落とされようとしている。

悪巧み段階から目にしてしまっていた私は、事の行く末を静かに見守っていた。

「うわっ!!!なにきも!?なんだよ!?」

大きな悲鳴が上がり、クラス中の視線が集まる。

「ははは、超ビビってんじゃん!」
「ばっか、ふざけんなよ!」

楽しそうに大笑いをしていたかと思えば、ふざけてつかみ合いを始める賑やかなその集団。

今まで気にせず話を続けていた親友の朱里(あかり)もその騒がしさにさすがに視線を向けた。

「えっ、なに?何が起きた?」

戸惑った朱里の声に私は静かに視線を戻す。

クラスの視線を集めた大声の正体が、首元に落とされた大きなムカデのレプリカであることは知っている。

だけど、朱里の話を聞かずにそちらを見つめていたことを正直にバラしてまで伝える内容ではない。

「なんだろ、びっくりしたよね」
「ねー」

あくまでも今初めて見るような私の下手な演技に、朱里は気付いていないように同意した。