「男子は?」
「俺、やりてえ!」

間髪入れずに手を挙げたのは、坊主に近い短髪に爽やかな笑顔をうかべる分かりやすい野球部男子の大輝。

その様子に、クラスからは冷やかすような声が漏れ、朱里は小さくため息をついた。

相変わらず仲良しだなぁ。

羨ましいようなふたりの関係に微笑むと、朱里は不機嫌そうに目を逸らしてしまった。

「大輝、彼女が出たからってやるじゃんー」

男子のざわつきも大きくなる中、一際大きい声で旭陽が揶揄うと、クラスは更に盛り上がる。

「別にいいだろ!3年生なんだし!」

誰にとっても、今年は特別な文化祭であるようだった。
堂々とした発言に、黄色い歓声が上がる。

朱里と大輝は、去年から付き合い始めて、クラスでは周知のカップルだった。

「あー!うるせえ!旭陽も一緒にやるぞ!いいな!?」
「はあー!?俺やだよ、巻き込むなよ」
「お前がこの空気作ったんだから責任取れ!!」
「意味わかんねーし!」

小学校から親友だったふたりの、小気味の良いやり取りは、既に慣れたもの。
クラスメート皆でそれを見守り、あっさりと4人の文化祭委員は確定した。

私は、その様子を眺めながら、手を挙げたときとはまた別の意味でドキドキしていた。

思わぬところで、旭陽と一緒になってしまった。

「はぁー!?まじかよ、朱里止めろよ」
「知らないよ、私関係ないじゃん」
「くっそ、大輝覚えとけよ」

朱里も巻き込んで文句を垂れながらも、楽しそうに笑う旭陽は、一度もこちらを見ない。

きっと嫌われている。

そんな心が脳裏を駆け抜けて、私は不安になっていた。

だけどこれは、チャンスのはずだ。

旭陽とは、ずっと仲直りがしたかった。
旭陽への初恋を良い思い出として、昇華したかった。

いつまでもグズグズと行動を起こせないでいる私に、タイムリミットが迫る私に、神様がチャンスをくれたんだ。

頑張ろう、文化祭も。旭陽とのことも。
ぎゅっと拳を握る私を、朱里は嬉しそうに見つめていた。