「旭陽でしょ?出てきた理由」

莉音ちゃんを見送りながら、前置きもなく呟いた朱里に、私は分かりやすく動揺した。

「え!?いや……別に」

自分でもわかるほど下手くそなごまかしに思わず苦笑してしまい、手すりにもたれかかった。

「旭陽と、元の関係に戻りたいんだ」

私は、心の中で密かに思っていた願いを初めて口にした。

旭陽とのことは、余命を宣告されて、初めて浮上した、私の唯一の心残りだった。

できるのならもう一度。旭陽の笑顔が見たい。

あの初恋が、私の最初で最後の恋になってしまった。だからせめて、良い思い出として持っていたい。

そんな自己中な理由は、誰にも言うことは出来ないのだけど。

「君たちは、なかなか拗れてるからね」

小学校時代を知る親友の言葉は重かった。
私達が仲良しの幼なじみだった頃を知り、仲違いの瞬間まで見届けた数少ない友人なのだ。

それに、私が入院したあとも旭陽と仲良くしていたみたいだから、私の知らない事情も何か知っているのかもしれない。

「だよね……。もう2週間も経ったけど話しかけられてないし。ていうか多分嫌われてるし、諦めかけては居るんだけど」

行動を起こせない自分の勇気のなさがもどかしかった。
だけど、旭陽を目の前にするとどうしても強ばってしまうのだ。

朱里は、何かを考えるように私を見つめていた。

「次、文化祭の話し合いだよね、先生来る前に戻らないと」
「次は出るんだ?ほんっと随分不真面目に育ったもんだよ」

朱里の皮肉に笑って返しながら、私達は教室へと戻った。