ストレートに投げられたボールが、気持ちの良い音を立てて空へと放たれた。

軌道を追い、見上げた先には、雲ひとつない快晴の空。

太陽に重なった白いボールは、眩い光に包まれた。

「うおおお!」
「甲子園だあー!!」

鳴り響く歓声と吹奏楽部の合奏が心地良い。
昂る感情をそのままに、俺はホームベースを踏んだ。

それを待ち構えていた部員が走り出し、揉みくちゃにされる。

汗も泥も気にせず抱き合って喜びを顕にする集団に、会場の歓声も鳴り止むことはなかった。

「旭陽……!」
「大輝」

顔を見ただけで、溢れ出す感情はきっと同じだ。

胸いっぱいにつっかえて、言葉には到底言い表せない気持ちをぶつけるように、勢いよく抱き合った。

高校3年間の努力が思い返される最高の瞬間だった。
周りを取り囲むチームの笑顔の中には光るものが見え、俺も大声で喜びを噛み締めた。

輪の中から、未だ歓声の鳴り止まない観客席を見上げた。

ベンチから近い、家族や友人が集まる特等席。

3年間の試合を重ねるうちに、見慣れた顔が増えたその席に、俺は太陽のような笑顔を見せる君を探した。

麦わら帽子を被って、こちらを見つめる君の笑顔は、あまりにも鮮明に映った。

柔らかく細められる、大きな目。
口角が上がり、頬に作られる可愛らしい窪み。

距離があるのに、スローモーションのように、はっきりと目に映るその姿に、俺は静かに笑みを零した。

「旭陽。挨拶」
「分かってる」

親友の大輝に肩を叩かれ、俺はその笑顔から視線を外す。

「ありがとうございました!!」

試合の挨拶を終え、応援の感謝を述べるため、近くからもう一度見上げた観客席に、君の姿はなかった。

快晴の空に、君の笑顔を探す。

太陽のような笑顔を向ける君は、あの日から、たったの一度も、俺の心から離れることはなかった。