「あら、売れ残りになりそうなわたくしに気を使ってくださるの?」

 ミレイナはカラカラと笑った。

 推しとの結婚は憧れだけど、半年後にシェリーに奪われるとわかっていて手を取るわけがない。ヒーローとヒロインは運命の赤い糸で結ばれている。そのあいだに割って入るなど言語道断だ。

 セドリックがミレイナの手を取った。持っていたクッキーがテーブルに転がる。

「僕は本気だ」
「だめよ。殿下とわたくしとではつり合わないわ」
「第三王子と公爵令嬢。十分釣り合いが取れているだろ」
「つり合いって身分だけじゃないもの」

 身分、年齢、他にも色々ある。シェリーと出会うまでのあいだだとしても、ミレイナのように社交界でもあまり目立たない地味な女性が第三王子の相手になるのは、気が引けるというものだ。

「わたくしは殿下のお友達になれただけで十分幸せですから。わたくしに気をつかわなくてよろしいのですよ」

 もてない女を哀れんだのだろう。恋を知らないセドリックは結婚を軽く考えているのだ。きっと『まあ、好きな奴もいないし、かわいそうだから結婚してやるか』とでも思っているのだろう。

 残念ながらセドリックには友達がいない。ミレイナ以外との交流はほとんどないといっても過言ではなかった。

 ほんの少しでも、哀れんでくれたのであればこの八年間は悪いものではなかったと思えるだろう。