一回行かないと足が重くなるもので、なかなかうまくいかない。一度、セドリックから会いに来た日があったが、それも「風邪をうつしたら大変だから」と言って追い返してもらった。

 実際には風邪も引いていないし、どこも悪くはない。いたって健康だ。

 家族は何も言わずにミレイナの嘘に付き合ってくれている。王宮で会ったセドリックの質問もはぐらかしてくれているようだ。

 セドリックからは毎日、見舞いの花だけが届く。いつもであれば無理にでも会おうとしただろうから、随分と大人になったのだろう。

 けれど、少し寂しくもあった。セドリックが一人の大人として自分の元から離れていっているようで。

「お嬢様ったら、まだ仮病を押し通すおつもりですか? もう五日ですよ」
「そうなんだけど……」

 ミレイナは抱き枕に顔を埋める。

「そういう気分の時があっても仕方ありません。けれどあまり長引かせると、殿下が騒ぎ出すかもしれませんよ?」
「そんな……。殿下はきっと気にしていないわ」

 ミレイナは子どものころから時々ひどい風邪を引くことがあった。そういときは決まって十日ほどは寝込むので、セドリックも「またか」と思って気にしていないだろう。

「殿下を侮ってはいけません。殿下はお嬢様のことを大変愛されておりますから」
「愛だなんて。ただ、八年も遊び相手をしていたから姉弟のように慕ってくれているだけよ」

 こういうのは、勘違いをすると痛い目に合うのがセオリーなのだ。言うならば、ミレイナはセドリックにとって、少し年の離れたただの幼馴染。

 異母兄弟たちとは仲良くなかった分、ミレイナに懐いた。ただ、それだけだ。シェリーとの出会いを果たした今、ミレイナの役割はそう多くない。

(たしか、シェリーは病気で寝込んでいる義理の姉に頼まれて、王宮の庭園に忍び込むのよね。そこで殿下と再会を果たすの)

 その出会いがきっかけで二人の恋が動くのだ。

 最初は夜会のパートナーだっただろうか。多くの家からの打診に嫌気がさして、シェリーにパートナーの話を持ち掛ける。わざとらしいお揃いの布で作ったドレスを着て。

 胸のあたりが痛い。ぎゅっと絞めつけられるような、重たい石でも入っているような苦しさ。ミレイナは胸を押さえた。

 二人が並んでいる姿を楽しみにしていたのに、今は気が重い。

「お嬢様、もしかして、この前の舞踏会で殿下と喧嘩でもなさいましたか?」
「殿下と喧嘩だなんて……していないわ」
「では何か嫌な思いでも? 表情が暗いですよ」
「そうかしら? 嫌なことなんてなにもないわ」

 ただ少しだけ、先日の夜のことが後ろめたいだけ。