セドリックとシェリーだと身分の差が大きすぎると周りから反対され、シェリーが心を痛めたときに彼がベスタニカ・ローズを差し出すシーンがある。

 何としても共に一緒になろうと将来を誓いあう感動シーンだ。

 原作の内容を思い出し、ぎゅっと胸が痛んだ。

 また、興奮してしまったのだろうか。痛む胸を押さえる。

(やっぱり疲れたみたい。今日は先に帰ろうかしら?)

 パートナーとしての義務は果たしたし、ダンスも一回踊った。大役をこなしたミレイナが早く帰っても誰も怒らないだろう。

(でも、もうこんな風に二人で庭園を歩くこともできなくなるのよね……)

 セドリックはこれからシェリーとの仲を深めていくのだ。ミレイナが近くにいると、邪魔になるだろう。そして、ミレイナも自分の将来も真剣に考えなければならない。

 永遠に続くような八年が瞬く間に変化していく。

(なんだかとても悲しいわ……)

「ミレイナ?」

 セドリックは不思議そうに首を傾げた。

 もう、こんな風に近くで見上げることもなくなってしまうのだろう。そう思ったら、身体が勝手に動いていた。

 ミレイナはそっとセドリックの頬に口づける。

 ほんの少し触れるような優しいものだったが、確かに彼の頬の柔らかい感触が唇を通して伝わる。

 彼は目を見開いたまま、微動だにしない。

「罰ゲーム。……約束だったでしょう?」

 ミレイナはそれだけ言うと、彼の手をすり抜け舞踏会の会場へと走る。

 頬が熱を持ったように熱かった。