ツンケンしているのはいつものこと。ミレイナやセドリックの従者には幾分か丸くなったけれど、ほとんど話したことがない相手だと、ハリネズミのように鋭い針で威嚇するのだ。

「はは……。ですよね。……邪魔者の私は失礼します!」

 ビルは逃げるように舞踏会の会場へと走っていった。

 まだ外には誰も出てきていない。噴水の水音とオーケストラの音楽が混じりあう。

 ビルの背中を目で追いかけながら、ミレイナは笑った。

「殿下、あまり怖がらせてはダメよ」
「別に、僕は何も言っていない」

 今日の彼はどうやらご機嫌斜めらしい。慣れない社交、たくさんの人で気が立っていても仕方ない。
 ミレイナは苦笑をもらした。

「ミレイナが突然いなくなるから探した」

 セドリックが「側にいると約束したのに」と小さく呟いた。

「ごめんなさい。たくさん人がいて疲れてしまったの」
「体調が悪いなら、休んだほうがいい。部屋を用意させようか?」
「心配性ね。ただちょっと人に酔っただけ」

 あと、少し興奮しすぎて胸が痛くなっただけなの。とは言えず、ミレイナはなんでもないと笑って見せた。しかし、セドリックは心配そうにミレイナの顔を覗き込む。

 今までこんなに過保護だっただろうか。

「もう、調子もよくなったの。約束の庭園を散策しましょう?」

 ミレイナが手を差し出すと、セドリックはその手を掴む。少し嬉しそうに頬を緩めたから、もう機嫌は直ったのだろう。

 先客のいない庭園は静かで、そして幻想的だった。もう少しするとカップルであふれてしまう。その前に散策ができたことは幸運だ。

「シェ……。あの女の子とのダンスはどうだったの?」
「別にどうとも。足を踏まれて痛かっただけだ」

(あんなに可愛い子と密着して感想がそれだけだなんて……。もしかして、照れているのかしら?)

 しかし、セドリックは心の底から嫌そうな顔をしている。嘘ではないのだろう。

 ならば、セドリックほどの美形になると、シェリーの可愛らしさが人並に感じるのかもしれない。そうだとすれば、ミレイナはその辺の石ころレベルだろう。

「今日は踏んだり蹴ったりね」

 ミレイナに脛を蹴られ、シェリーには足を踏まれ。きっと、セドリックの足は青あざだらけだ。

「これからダンスをする機会が増えるから、ミレイナはもっとダンスの練習をしたほうがいい」
「そう? ダンスなんて年に数回しかしないのよ?」

 夜会には必要最低限しか参加していない。もしかしたら、今年は婚活のために少し増えるかもしれないけれど、それだって限定的だ。
 きっと、これからも年に数回を繰り返していくと思う。