王宮の舞踏会は年に数回開催される。決まっているのは建国記念の一回で、それ以外は祝い事などがあると適宜開催される。最近では国王の誕生を祝う舞踏会が毎年行われている程度だろうか。

 歴史を紐解くと、王太子の結婚相手を探す舞踏会が開催されたこともあるのだとか。どこかで読んだ物語のように。

 王族の社交デビューの場は、国内の貴族はみんな招待される。そのため、婚活の場として人気だ。だから、今日までにみんな社交デビューを早めたのだろう。

(わたくしもお相手を探す余裕はあるかしら?)

 セドリックを置いてはいけない。それに、今日は彼とシェリーの出会いがあるはずだ。それを堪能するほうが優先される。

 婚活はもう少し先になりそうだと思った。

「セドリック第三王子殿下、ならびにミレイナ・エモンスキー公爵令嬢」

 セドリックのエスコートで会場に入る。

 中央の入り口から入場して、貴族たちの真ん中にできた花道をセドリックと共に通る。そこまでがミレイナの最初の役割だ。両親が待つ、先頭でわかれる。その先にある階段を登るのは王族のみが許されているからだ。

 彼はいつも以上に何を考えているのかわからない表情でまっすぐ前を向いていた。ミレイナが心配する必要などないのかもしれない。

 しかし、セドリックとは反対にミレイナは緊張で身体を強ばらせた。

 元々社交場にもあまり顔を出さないのに、こんなに注目を浴びているのだ。緊張しないわけがない。左右から突き刺さる視線。みんなセドリックを見ているのだということはわかる。けれど、おこぼれでもらう視線すら息苦しさを感じた。

「見ろ。あの男、腹のボタンが取れてる」

 セドリックが耳元で小さく言った。彼の視線を追って、男を見ると、大きなお腹の真ん中にあるボタンが取れ、中の白いシャツが顔を出していた。

 ミレイナは思わず笑った。男のセドリックを見る真剣な面持ちとのギャップが面白い。

「笑わせないで」
「ミレイナがむすっとしてるから」
「もうっ……。真面目な席で思い出して笑ったら、どうしよう」
「別に、少しくらいなら大丈夫だろ。それよりも、人が多くて疲れた」

 セドリックがため息を吐く。

「まだ始まってもいないわ」

 しかし、疲れているのはミレイナも同じだった。ミレイナの場合は気疲れのほうが大きいが。

 二人とも引きこもり体質なので、思うところは同じだ。

「はあ……。帰りたい」
「わたくしも……」

 二人は顔を見合わせて小さく笑った。

 セドリックのおかげで少しずつ周りを見る余裕が出て来た。

「ミレイナ。疲れたから、やっぱりファーストダンスだけで……」
「だめよ。二曲は約束だわ。二曲だって少ないくらいよ」