残念なのはミレイナだけで、セドリックは内心喜んでいるだろう。毎日のように押しかけ、隣で一方的に一時間しゃべっている女など邪魔でしかないだろうから。

 セドリックの眉がピクリと跳ねた。読んでいた本から顔を上げる。

「なぜ?」
「ほら、もうわたくしも二十三歳でしょう? そろそろ真剣に結婚相手を探さないといけないでしょう?」
「……結婚相手?」
「ええ。殿下はまだ先の話でしょうけど、わたくしはそろそろ『売れ残り』なんて言われてしまう時期が来てしまったのよ」

 ミレイナは小さくため息を吐いた。

 前世の記憶を辿ると、セドリックの青春はあと半年後くらいだろうか。ヒロインのシェリーが子爵家の娘として引き取られ、社交界に現れるのがそのくらいだ。

 恋愛とは無縁の彼にはまだわからない話だろう。

「結婚なんてまだ必要ないだろ」

 セドリックの呟きにミレイナは笑う。

「そう言えたらいいのだけれど……」

 できることならずっとセドリックの綺麗な顔を眺めて過ごしたい。けれど、物語が始まる半年後にはシェリーとの恋愛が始まり、彼に会いにくることも難しくなるだろうからちょうどいいともいえる。