セドリックがわずかに頬を緩ませる。ほんの少しで見逃しそうなほどだったけれど、とても嬉しそうだ。

 幼いころからセドリックは完璧主義なところがあったから、パートナーにも完璧でいてほしいのだろう。

(アンジーの言葉を聞いておいてよかったわ)

 ミレイナは嬉しくなって、イヤリングを触った。

 セドリックの瞳の色によく似たアメジストのイヤリングだ。

「そのイヤリング、初めて見たやつだ」
「殿下ったらそんなことまで覚えているの?」
「それくらい普通だろ?」

 十歳で王族が習うすべての勉強を終えたセドリックなら普通かもしれない。しかし、たかがミレイナのイヤリングまで覚えているものだろうか。

 似たような色や形のイヤリングはたくさんある。正直、ミレイナですら把握できていないほどだ。

「素敵な色でしょう? いただいた物なのよ。お気に入りなの」

 ミレイナは満面の笑みを浮かべたが、セドリックは身体を硬直させた。

「殿下?」

 突然のことに首を傾げる。

「だ――……」
「殿下、ミレイナ様、そろそろお時間です」
「まあ! もうそんな時間? 殿下、会場に向かいましょう」

 ミレイナはセドリックの手を握った。言いかけていた話はあとで聞こう。今は何よりも、彼が社交デビューを華々しく飾ることが大切なのだから。

 セドリックが暮らす宮殿から一緒に外に出るのとても新鮮で、つい見上げて確認してしまう。そのたびに彼と目が合って、微笑んだ。

 前回のデートでは、髪の色が違っていたせいかあまり印象深くなかった。もちろん、金髪に変わった程度でセドリックの魅力が半減することはない。けれど、この黒髪が彼の持ち味であり、セドリックの魅力を最大限に引き出していると言ってもいいと思う。

 金髪なら鏡で毎日見ているし、母も兄も金髪だ。珍しさはそうなかった。

「さっきから顔、緩んでる」

 セドリックがミレイナの頬を指先でつつく。そんな風に触られたら、あとでアンジーに怒られるのはミレイナだというのに。

「今日はずっと僕の隣に立っていること」
「もちろん、パートナーですもの。置いていかないわ」

 セドリックが疑いの眼差しを向ける。

 そんなに一人にされないか不安なのだろうか。

(そうよね。いつも余裕そうに見えても今日が初めての社交場ですもの)

 不安になるのも仕方ないことだ。ミレイナは満面の笑みでセドリックを見上げた。