八年前、この部屋で会ったときも少し息苦しそうに、不機嫌な顔をしていた。

 セドリックはミレイナの視線に気づいたのか、眉根を寄せる。

「顔に何かついてる?」
「感慨深いなーって。初めて会ったときはわたくしより小さかったのに……」
「……そんなに変わらなかった」
「あら、これくらいは小さかったわ」

 ミレイナは右手で自分の眉のあたりを示す。

 少し上目遣いで睨みつけるような紫の瞳が可愛らしかったのを覚えている。

 時は流れ、もう八年。セドリックとの毎日は長いようで短かった。

(今日で終わりなんて寂しいわ)

 一人で感傷に浸っている場合ではない。セドリックにとっては今日が門出となるのだから。

 ミレイナは右手をセドリックの頭の高さまでうんと伸ばす。

「それがこーんなに大きくなるんだもの。今日は感動して泣いてしまうかもしれないわ」

 社交デビューに特別な式典があるわけではない。それは王族も一緒だ。

 大人たちの仲間入りをするというだけで、基本は挨拶に回り、ダンスを踊るくらいだった。

 セドリックは王族だから挨拶回りすら必要ない。黙っているだけで自動的に来てくれる。

 彼は伸ばしたミレイナの手を掴むと、不機嫌そうにそれを下した。

「子ども扱いするな」
「怒らないで。そんなつもりじゃなかったのよ」
「次、子ども扱いしたら……。その口、塞ぐから」

 セドリックはミレイナの鼻先を犬のように甘噛みする。

「きゃっ! 殿下、そういうのはだめって言っているじゃない」
「ミレイナがずっと子ども扱いするからだろ。僕ももう十八だ」

 そういうところがまだまだ子どもなのだと言ったら、怒られてしまいそうだ。

 ミレイナは噛みつかれた鼻を撫でる。

「もうっ……。化粧がよれてしまったわ」

 側に控えていたアンジーが慌ててお粉をはたいてくれたおかげで、事なきを得た。もし、アンジーがいなかったら、ミレイナは鼻の頭だけ化粧が取れた間抜けな状態で舞踏会に出なくてはならなかったのだ。

「別にそのくらいでミレイナの価値が変わるわけじゃないだろ」
「わたくしは殿下のパートナーとして完璧な姿で参加したいの」

 推しの社交デビューにケチをつけたくない。最高のオマケとしてセドリックの引き立て役になるのが目標だ。