ミレイナは鏡の前でくるりと回って見る。

 白地を基調とし、爽やかな青を入れたドレスがふわりと広がった。舞踏会の華やかさに合わせてか、大胆に背中が開いていて少しだけスースーする。けれど、青の繊細なレースが艶やかな白の生地に映えて、どこもかしこも美しい。

 シェリーみたいなとびきりの美人が着れば、もっと映えたことだろう。けれど、今日はセドリックのオマケとしてあまり卑下するわけにはいかない。

「今日は練習の成果を見せてきてくださいね」
「ええ。ダンスに誘ってくれる殿方がいらっしゃるといいのだけれど」
「大丈夫です。必ず一人はいますから」

 アンジーの自信はどこからくるのだろうか。昔からミレイナのことを慕ってくれているせいか、ミレイナに対する評価が甘めなのだ。

 ミレイナは期待と緊張を胸に、王宮へと向かった。

 セドリックとは王子宮で待ち合わせて行くことになっている。セドリックのことだから、準備を既に終えて、暇潰しに本でも呼んでいるかもしれない。

 正装でソファーに座り読書に明け暮れる姿を想像して、ミレイナは肩を揺らした。

 しかし、ミレイナが通されたのはいつもの部屋ではなく応接室だ。ここは最初に彼と出会った思い出の場所でもある。

『僕には教師など必要ない』とぴしゃりと言われた八年前が昨日のことのように思い出された。

 セドリックの侍従が応接室にやってくる。

「お待たせいたしました。殿下の準備が整いました」

 侍従に促されセドリックが応接室に入ってくる。

 青の上着に、白いパンツ。左肩になびくペリース。金の装飾がふんだんに使われた正装だ。

 目の前に立っているのは、ミレイナがずっと思い描き続けてきたままのセドリックだった。

 太陽の光を浴びて、黒髪に紫が混じる。

 見惚れて言葉が出ないくらいだった。

「ミレイナ、綺麗だ」

 セドリックに見下ろされ頬に触れられてようやく、正気を取り戻す。

「あ、あら。大人の仲間入りをするとお世辞まで言えるようになるのね」

 それくらい、セドリックの褒め言葉は珍しい。いつもツンケンとしていて、それはそれで可愛いのだが大好きな推しに褒められるのは別腹だ。

(もしかして、今まで頑張ってきたことへの神様からのご褒美かしら?)

 あまりにも嬉しくて、頬を緩めた。

「殿下もとっても素敵よ。いつものラフな格好もいいけど、こういうカッチリとした正装も似合うのね」
「窮屈でいやだけど、ミレイナが好きって言うならこれからも着てやる」
「まあ! 嬉しい」

 首元のボタンまでしっかりとしめているせいなのだろう。セドリックは長い指を襟の中に入れると、息苦しそうに引っ張った。

「窒息しそうだ」

 セドリックはため息を吐く。そんな姿すら麗しくて目の保養だ。

 頬が緩まないように気をつけてはいるが、難しい。今日はずっと緩みっぱなしだと思う。