セドリックの社交デビューの予定が早まった関係で、社交界は騒がしくなっていた。

 王宮の舞踏会で社交デビューできるのは、王族のみという慣習があるためだ。セドリックがデビューする舞踏会に子息を参加させるためには、それよりも前に社交デビューさせる必要がある。

 しかし、急いで社交デビューさせるにしても、格式ある夜会を選びたいと思うのが貴族なのだろう。

 舞踏会までの一ヶ月で開かれた夜会で、上位貴族が主催した夜会は多くの人で賑わったらしい。

 本来ならば婚活のため、ミレイナも参加したかった。しかし、連日のダンス練習の疲れから、夜会になど行くことはできなかったのだ。

 しかし、ダンスの練習はセドリックのために必要なこと。一日たりとも休むわけにはいかなかった。

 結果、ミレイナの婚活はまったく進むことなく、王宮の舞踏会の日になってしまったのだ。

「お嬢様、ほんっとうに素敵です!」
「ありがとう。けれど、こんなに派手なドレスで参加していいのかしら?」
「何をおっしゃいます! 第三王子殿下のパートナーとして参加するんですよ!? いつもみたいに『適当で』なんて許されません!」

 アンジーの強い言葉に他のメイドたちも頷き合っている。

「主役は殿下よ。わたくしはオマケでしょう?」
「オマケだからといって、殿下の服の装飾が適当だったらお嬢様は怒るでしょう?」

 たしかに。とミレイナは頷いた。オマケと言えど、セドリックと登場から一緒なのだ。ミレイナはずっと前にデビューした謂わば先輩。エスコートは男性がするものだけれど、実質ミレイナがエスコートするようなものだろう。

「そうね。そうよね。わたくしもオマケとして胸を張って着飾らないとダメね」
「そうです。ですから、もう少しチーク足しましょう。最近はほてり風のメイクがトレンドだそうですよ」
「メイクにも流行があるのね。難しいわ」
「ご安心を。そういうことは私が調べておきますから」
「アンジーは本当に頼もしいわ」

 ミレイナは瞳を潤ませてアンジーの手を取った。アンジーが流れる前に溜まった涙を拭う。

 こういうとき、しっかり者のアンジーがいることでどんなに助かったことか。感謝を伝えてもまだ伝えたりない。

「第三王子殿下がデビューなさったら、これから社交界は賑わいますね」
「ええ、そうなの。恋を知らない殿下も、とうとう恋する時期がくるのよ」
「殿下が……ですか?」

 アンジーは首を傾げる。

 アンジーも不思議なのだろう。あの、人間に興味がないセドリックが恋をするなど想像できないから。

 ミレイナだって、前世の記憶がなければにわかには信じられないことだ。王宮に引きこもり、友達の一人も作ろうとしない彼が恋をするなんて。

 この先の未来で、シェリーと恋仲になったことを知ればアンジーもうんと驚くだろう。その時は彼女に言うつもりだ「言った通りだったでしょう?」と。

「お嬢様、イヤリングはこちらでいかがでしょう?」
「あら、素敵なアメジスト。わたくしの好きな宝石だわ」

 とくにこのアメジストはセドリックの瞳によく似ている気がする。

 推しの色をつけると、いつもよりも気合いが入るのは気のせいだろうか。前世の血が騒ぐからかもしれない。

「奥様がお嬢様にとくださった装飾品の一つですよ。お好きかと思って用意しました」
「まあ! そうなのね。お母様にあとでお礼を言わないと」

 ドレスや宝石の類いに関してはあまり興味がないため、アンジーに一任している。しかし、推しの色が入っているとなると話は別だ。このイヤリングは一軍入りにしようとミレイナは心に決めた。