ふだんミレイナと一緒でも彼は本を読んでいることが多い。そんな彼の横顔を堪能することがミレイナの幸せだったので、寂しいと思ったことはなかった。

 同じく空間で過ごすことのできる一時間を感謝こそすれ、ミレイナにつれない彼に負の感情をいただいたことはない。

 しかし、ダンスの時間だけ、セドリックは積極的に話してくれるような気がする。少しぶっきらぼうなところはあるが、聞けば答えてくれるのだ。

 元々口数が多いほうではないから、なんだか不思議な感じだ。きっと、会話もダンスの一環だと諦めているのだろう。

「先日、王都に新しくカフェができたらしい」
「まあ! そうなの? あいかわらずセドリックは情報通ね」
「それくらい勝手に耳に入ってくる」

 セドリックは今も昔もほとんど王宮からはでないという。従者が楽だと零していたのを覚えている。しかし、彼はなにかと王都の流行のものや新しいものの情報を手に入れて、ミレイナに教えてくれる。

 彼はミレイナよりも情報通だ。

「どんなカフェかしら? 最近は色々な趣向を凝らしたカフェがあるらしいの」

 料理以外、内装にも趣向を凝らし店内の雰囲気を楽しめるカフェが増えたと、義姉から聞いたことがある。

 そういう洒落たカフェを好む夫人や令嬢が多いからか、貴族が出資しているという話も聞くようになった。

(明日の社交デビューでシェリーと出会ったら、ここには来られなくなってしまうから、カフェでも行ってみようかしら?)

 カフェに一緒に行ってくれるような友達はいないが、母や義姉なら付き合ってくれるかもしれない。

 雰囲気が素敵な場所なら、セドリックも興味が湧いてシェリーを連れ出してくれるだろうか。原作の中で彼は、終盤まであまり積極的ではなかった。どちらかといえドライなほうで、読者の多くが「第二王子と結ばれてほしい」と言っていたほどだ。

 ミレイナ自身はセドリックの素直になれないところが好きだったし、あまり表に見せない嫉妬や執着も推せるポイントではあったが。

 近しい友人となった今なら、ミレイナのおすすめに従ってシェリーをデートに誘うことだってあり得るかもしれない。

「行ってみたい?」

 セドリックの質問に、ミレイナはターンをしながら頷く。

「ええ。行ってみたいわ。今度行ってきたら、どんなところか教えてあげるわね。――きゃっ」