「疲れてるんだろ? 休憩しよう」
「自分で歩けるわ!」
「嘘。足が笑ってる」

 セドリックは不機嫌そうに真っ直ぐ前を向く。こうなると、ミレイナにできることは極力彼の迷惑にならないように、静か身を任せることだけだった。

 心臓の音がうるさい。いきなり運動をしたからだろうか。

 いつもより駆け足な心臓はなかなか落ち着いてはくれなかった。

 セドリックとミレイナのダンスの練習は毎日、一時間続いた。最初は三、四曲でバテてしまっていた身体も、少し曲数が増えても大丈夫なようになった。

 一回の夜会でそんなにダンスをしたいとは思わないが、体力がついたことは素直に嬉しい。

 そして、ほんの少しだがダンスが上手になったような気がする。セドリックの足を踏む回数は減ったし、ステップを間違えることもあまりなくなった。

 ミレイナにとって大きな進歩だ。

 練習三十日目。舞踏会は明日に差し迫っている。オーケストラのメンバーも気合いが入っているように思う。

 幸い、ミレイナはセドリックの脛を蹴っていないし、彼も一度も間違えていなかった。

 会話を楽しむ余裕も生まれたように思う。セドリックとの会話は思った以上に楽しくて、つい会話に集中してしまって失敗することは時々あったが、他の人なら大丈夫だろう。