舞踏会の会場となる大きなホールだった。

 そして、ダンスの練習のためだけに用意されたオーケストラを前にミレイナは顔を引きつらせる。

「音がないと練習にならないから」
「だからって、全員用意することはなかったとおもうのだけれど……」

 本番さながらの数が揃えられている。練習ならば主旋律を弾いてもらうだけで充分だと思うのだ。それともこれが王室流なのだろうか。

「お嬢様、お気遣いなさらず。我々も舞踏会までに練習をしなければなりませんから。殿下のおかげで本番と同じ環境で練習ができて光栄です。舞踏会までのあいだ、よろしくお願いします」

 指揮者の男が深々とミレイナに頭を下げる。

「もしかして、一ヶ月毎日ここでダンスの練習を?」
「もちろん。ミレイナも付き合ってくれるだろ?」
「……構わないけれど、わたくし一人では一時間も付き合えないと思うわ」

 自慢ではないがミレイナは体力がない。甥と一緒に遊んでいても、途中でバテて甥に気遣われるほどなのだ。

 セドリックはストイックな面があるから、彼の要求には応えられる気がしなかった。

「休み休みでいい。それに、僕が頼める相手はミレイナしかいないし」

 少し寂しそうに言うものだから、ついミレイナは「わたくしに任せて!」と言ってしまうのだ。

「ありがとう。では、ひとまず一曲いかがですか?」

 彼は本番のようにミレイナに手を差し出した。差し出された手を見て、彼の成長を感じずにはいられない。

 最近になってどこもかしこも子どもらしさがなくなっていた。前世で好きになったときと同じ姿だ。

 だからだろうか、仕草一つ一つにドキドキしてしまう。