つい、うっとりと手を取りそうになって、ミレイナは慌てて手を止めた。

「わたくし、ダンスは下手よ? うまい人に頼んだほうがいいのではなくて?」
「その辺の令嬢がみんな上手ならそうするけど、そうじゃないだろ? ミレイナくらい下手なほうがちょうどいい」
「なんだか複雑な気分。昔よりは少しはうまくなったのよ?」

 もう相手の脛は蹴らないと思う。

 昔はよく兄の脛を蹴って青あざを作り、笑いのネタとして食卓に上がったものだ。ネタになっても仕方ないと思うほど、兄の脛は一時期ひどかったから仕方ない。

 最近は時々足を踏んでしまうくらいまでには上達した。

 体力は相変わらずないから二、三曲も踊ればヘトヘトになってしまうけれど。

「ふーん。だったら、失敗したら罰ゲームをしよう」
「罰ゲーム?」
「そう。罰ゲームがあったほうがお互い真剣になるだろ?」
「そうかもしれないわね」
「じゃあ、決まりだ。ミレイナが僕の脛を蹴ったら、罰ゲームでミレイナから僕にキスして」

 セドリックはミレイナの耳元で囁いた。言葉の意味を理解して顔にカッと熱が昇る。

「キ、キスって……!」