シェリーとの仲が深まったときに、セドリックとミレイナがギクシャクするのも嫌だった。

「挨拶だと思って慣れて」
「と! とにかく、時と場合を考えなくてはだめよ? 外でこんなことしたら、セドリックがわたくしに気があると勘違いされてしまうわ」
「僕はミレイナに気があるから勘違いじゃないと思うけど。まあいいや。今はわかってもらえなくても。僕はそういうところも含めてミレイナのこと気に入っているわけだし」

 セドリックの手が離れて、ミレイナはホッと息を吐いた。適性な距離は心の平穏を守るのには大切だ。

 彼はいつものようにソファーに座ると本を開いた。けれど、思い出したように顔を上げる。

「そうだ、ミレイナ。明日からは時間を二時間あけておいて」
「二時間? なぜ?」
「社交デビューが一ヶ月後だから、ダンスの練習をしないと。もちろん先生なんだから、付き合ってくれるだろ?」
「ダンスは既に習得しているのでしょう?」
「十歳の時にね。八年前だから不安なんだ。予行練習に付き合ってよ」

 セドリックがミレイナに向かって手を差し出す。男性が女性をダンスに誘うときの仕草に似ていた。

 こういうのが様になってしまうから、少し憎たらしい。そして、やっぱりセドリックはかっこいい。

 きっと、舞踏会でシェリーに手を差し伸べる姿は美しすぎて卒倒する人も出てくるのではないだろうか。