原作だとツンの時期が長すぎて、デレを見られるのはもっと先だと思っていた。まさか間近で見られるとは思ってもみなかったのだ。

 嬉しさと緊張で心臓が駆け足になった。

 セドリックは原作よりも性格が丸くなっているように感じる。原作では兄弟とは疎遠だった。彼は頭がいいから同年代の貴族の子とは話が合わず友達もいないという設定だ。

 彼は幼いころに人の関わり方を知らなかったため、ヒロインのシェリーを大いに振り回した。

 設定と違う点はミレイナという友達が現在一人いるということだけだろうか。その程度で何か変わるかと聞かれたら変わらないような気もする。

「セドリックったら……! そ、そういうのは気安くしてはだめよ」

 ミレイナだから勘違いしないで済むものの、他の女性にしたら結婚の二文字を頭に浮かべる人も出てくるのではないだろうか。

 できればシェリーのライバルは少ないほうがいい。

「誰彼構わずするほど僕は軽率じゃない。ミレイナだからするんだ」
「わたくし相手にもだめよ。びっくりしてしまうもの」
「我慢しないって言っただろ?」
「そうだけど……」

 今までのセドリックの反応とは違うから少し緊張もするし困惑もする。彼は彼なりに考えての行動なのだろう。

 面倒な結婚をミレイナで妥協する計画であることは明白だ。そのために尽力しているのだろうが、それに振り回されるミレイナの身にもなってほしい。

 セドリックが社交界にデビューすれば、シェリーとのラブロマンスもスタートするだろう。その時、セドリックにとってはミレイナにしたアピールの数々が黒歴史となるのだ。

(お姉さんとしてはそれを阻止してあげないと!)