ヒロインとのダンスも一番無害そうだという理由で選んでいたはずだ。

(あ! 今のセドリックにとってわたくしが一番無害だと感じているのね)

「わかったわ。陛下やお父様の許可がもらえたら一緒に行ってあげる」
「ありがとう」
「いいの。わたくしだってあまりモノだもの」

 ミレイナはセドリックの手を取って満面の笑みを見せた。

 王宮主催の舞踏会ともなると、田舎の貴族も集まってくる。いつもエスコートを頼む従弟は婚約者と行くだろう。

 公爵家の騎士の中から一人選べば事足りるのだが、セドリックが一人で寂しいのであれば話は別だ。

(初めての社交場で一人は心細いわよね)

 原作でも本当は寂しかったのかもしれない。ただ、甘えられる存在がいなかっただけなのではないだろうか。

 こういうときこそミレイナの出番だ。

(そうだわ。パートナーとして一緒にいれば、ヒロインの元まで誘導もできるし、特等席で二人を見ることができるじゃない!)

 物語の始まりに立ち会える可能性がある。

 ほんの少し時期とシチュエーションは変わってしまうかもしれないが、二人は恋に落ちる運命なのだから、問題ないだろう。

「セドリック、舞踏会が楽しみね」

 ミレイナは嬉しさのあまり、セドリックの手を握りしめた。
 セドリックは目を丸め、そして、嬉しそうに細めた。

「僕もずっと楽しみにしてたんだ」

 彼はそのままミレイナの手に口づけた。指先に触れた唇の感触にミレイナは肩を跳ねさせる。

 上目遣いで見られて、心臓も跳ね上がった。頬に熱が上がっていくのがわかる。長年の推しからそんな色っぽい目で見られてドキドキしないほうがおかしい。