現実、セドリックから他の王子や王女の話は聞いたことがない。

 しかし、もしミレイナが王女として生まれ、セドリックの姉だったら原作など関係ないとばかりに毎日可愛がったに違いない。

 セドリックが結婚しても姉として仲良くできて最高ではないか。

「姉じゃなくてもミレイナはパートナーになれる」
「どうして?」
「ミレイナは先生だから」
「あら……。すっかり忘れていたわ」

 多くの貴族が家族内の誰かがパートナーを勤めるから、記憶から抜けていた。家族や婚約者以外に教師を務めている者もデビュタントのパートナーとして認められるのだ。

 過去に実例がなかったわけではないから、批判されることもないとは思う。

「王族は全員参加だろう? 王妃である母に頼むわけにもいかないし、姉上は兄上と行くはずだ」

 セドリックが少し悲しそうに眉尻を落とす。

(原作ではどうだったかしら?)

 セドリックのパートナーのことは書かれていなかったように思う。田舎から出て来てデビューしたばかりのヒロインと舞踏会で出会ってダンスを踊るのだ。

(一人で参加したのかも)

 原作に描かれるセドリックならあり得なくもない話だ。彼は人嫌いで、周りに人を寄せつけないところがあった。