例外はある。既に婚約者がいて、その婚約者が社交デビューしている場合だ。けれど、ミレイナは家族でも婚約者でもなかった。

「殿下のお姉様になれたら絶対にパートナーに立候補したわ」
「セドリック」
「……え?」
「セドリックって呼べと言っただろ?」
「あれは変装していたからでしょう?」
「またすぐ変装して遊びに行くから、慣れておいて。二人きりのときはいいって言ったのはミレイナだ」

 彼の紫色の目で見つめられると嫌だと言えなくなる。ミレイナにとって大切な推しのお願いを聞けないわけがない。

「わ、わかったわ。セドリック。これでいいのでしょう」
「ああ。あと、ミレイナは姉ではない」
「わかっているわよ、そんなこと。ただ、お姉様として生まれていたらパートナーも引き受けられるしいいと思ったの」

 こんなモブの中のモブではなく、セドリックの姉である第一王女に生まれられたらどんなに幸せだろうか。

 たしか原作では他の兄弟たちとセドリックはあまり仲がよくない。いがみ合っているというわけではないようだが、母親が違うため互いに距離を置いていると書いてあった。