熱のせいだろうか。心音が強くなったような気がする。セドリックは、悟られないように小さく息を吐いた。

「本当にファーストダンスで逃げ出す奴がいるか」
「あら、殿下が助言してくれたのよ? もし、怒られたら庇ってくれないと困るわ」
「……怒られそうになったら、僕のせいにすればいい」

 実際、セドリックの看病をしに来たのだろう。

 きっと、昼間従者に追い返されたときに聞いたのだ。従者はときどき余計なことをすることがある。

 彼がもっとうまい理由でミレイナを追い返しさえしていれば、彼女は今ごろ夜会で多くの人と交流を広げていただろう。

 まさか、こんな簡単な方法で彼女のダンスを阻止することができるとは思わなかった。

 いつもとは違う華やかなドレス姿。むき出しの肩に大ぶりのネックレス。ランプの光に反射して、宝石が輝いている。

 どうしてだろうか。ミレイナがどこか遠くへ行ってしまうようなもどかしい感覚。セドリックは彼女の腕を掴んだ。

「ひどい熱だわ。一人で辛かったでしょう?」
「ぜんぜん。このくらい平気だ」
「嘘。こういう時くらいお姉さんに甘えたっていいのよ」
「ミレイナのこと姉なんて思ったことは一度もない」

 セドリックはミレイナに背を向けて丸くなった。腹違いの姉が一人いるが、彼女は常にセドリックに無関心だ。あんなのと同列なわけがない。

 もっと、大切な。でも、それを表現するいい言葉は見つからない。