デビュタントのファーストダンスは婚約者がいない場合、親や兄弟、親族が担う。

 ならば練習相手になったウォーレンが有力だろう。

「そんなことをしていいのかしら? ダンスや礼儀作法の先生から『たくさんの人と踊りなさい』って言われたのよ」
「ミレイナの体力じゃせいぜい一人か二人だろ?」
「今はもう少し体力ができたはずよ」

 三曲なら……と、ミレイナは小さく言った。二曲が三曲に増えたところで何も変わらないと思うのだが。

 どうやったら彼女が他の男とダンスをするのを止められるのだろうか。まだ社交場に出ることも許されない身でできることなどあるのだろうか。

 きっとドレスを着て、夜会に参加する彼女は今以上に綺麗なのだろう。




 ミレイナの社交デビューが決まってから、彼女は忙しそうにしていた。それでも、セドリックの元には訪れることをやめない。『無理してくる必要はない』と言った口で、『明日も来るのか?』と聞いて。

 デビュタントの準備は多岐に渡るようで、眠る時間も惜しんでいるようだ。セドリックの横でいつもニコニコ笑っているだけだったミレイナが、真剣に貴族名簿を読みこんでいるのは不思議な光景だった。

 夜会当日。

 セドリックは熱を出した。