「昨日はお兄様の婚約者にお会いしたのよ。とてもシャキシャキした方で安心したわ」
「へぇ」
「王太子殿下も先月婚約なさったでしょう? 殿下はお会いしたことがある?」
「いや」
「まだですのね。お会いしたらどんな方か教えてくださる?」
「気が向いたら」

 どんなにセドリックが素っ気ない態度をとっても、ミレイナは嫌な顔一つしなかった。母ですら、『可愛げのない子』とため息をつくというのに。

 彼女のいる時間、セドリックは大抵本を読むことにしている。本を読んでいればそこまでたくさん声はかけられない。ふとした時に視線が合う程度だった。

 彼女はいつもセドリックを眺めながらお菓子を食べているだけだ。時折一緒に本を読むこともあったが、ほとんどページはめくられていなかったから、おそらく読んではいなかったのだろう。

 どんなにつれない態度で接しても、彼女は文句一つ言わずニコニコと笑ってセドリックを見つめるのだ。それの何が楽しいのかはわからなかった。

 一つだけ評価できることがあるとすれば、彼女はけっしてわがままを言わないことだ。

 一時間という決められた時間だけを消費し、屋敷に戻っていく。今まで何人か友人候補を連れてこられたことはあったが、大抵が「外で遊ぼう」と無理やり腕を引っ張られたりと野蛮な人が多かった。

 だから、ミレイナであれば友人として認めていいとすら思ったのだ。

 しかし、それは突然やって来た。

 毎日来ていたミレイナが突然来なくなったのだ。