他人にミレイナを抱かせるなんてことをするわけがない。

 セドリックが大股で歩くと、アンジーが慌てて追いかけてきた。

 眠っているミレイナを起こしてもよかったが、彼女の部屋がどんな風なのか興味が湧いたのだ。

 ミレイナの部屋は公爵家の三階。庭園が一望できる場所だと聞いたことがある。窓を開けると花の香りでいっぱいになるのだとか。

 アンジーが扉を開けると、ふわりと花の香りに包みこまれた。

 ミレイナからうっすらと感じる香りに似ている。まるで彼女に包み込まれたような感覚にくらくらした。



 ◇◆◇


 ミレイナ・エモンスキーがセドリックの心の中に入り込んだのはいつだったのか。正確な日付は覚えていない。

 彼女はいつの間にか溶け込み、セドリックの奥の奥まで入り込んでいた。

 最初にミレイナと会ったのは、母の顔を立てるためだ。エモンスキー公爵家は貴族の中でも力のある家門で、『エモンスキー家のお嬢さんと繋ぎを作っておくことは悪いことではないわ』と言った。

 あのころの母はセドリックの後ろ盾を作ろうと必死だったように思う。

 母は王妃とはいえ、後妻であまり身分は高くなかった。前妻の子が三人もいる中、実の息子の後ろ盾がほとんどないことが心配だったのだろう。

 ミレイナと初めて会ったとき、美人だとは思ったがそれ以上の感想はなかった。泣き落としをされたときは、母の顔が浮かんだ。今追い出し、この顔で母に泣きつかれたら面倒なことになると思い受け入れた。

 その日から、ミレイナは毎日一日一時間、同じ部屋で過ごして帰っていく。

 教師だと言ったが、何か教えられたことはない。ただ、他愛のない話を彼女が一方的にしていくのだ。