セドリックは眠ったままのミレイナを抱き上げ、馬車を降りる。

 カフェで眠りこけた彼女は、まったく起きなかった。カフェから馬車に移動した際も、馬車の揺れの中でもあどけない寝顔を見せたままだ。

 はじめは寝ているふりでもしてセドリックを困らせているのかと思ったが、どうやら本気で眠っているようだった。

 安心しきっているのか、無防備な寝顔でセドリックに身体を預ける。そんな姿すらいとおしく感じ、彼女が起きないように馬車をゆっくり走らせた。

「お疲れでいらっしゃったようですね」
「疲れてるなら言えばいいのに」
「殿下が無理に押しかけたからでしょうに」

 幼いころから従者として側にいる騎士はセドリックに言った。彼はいつも王子であるセドリックにも物怖じせずなんでも言ってくるのだ。そういうところが気に入って、追い出さずにいる。

 セドリックはミレイナの寝顔を見下ろした。疲れているならそう言ってくれれば、別日にしたというのに。

 ミレイナの予定を確認しているあいだに、またアンドリュー・フレソンのような男がミレイナをかっさらってしまうのではないかと思うと怖かったのだ。

 彼女は警戒心がなく、無防備すぎる。

「せっかく一晩で練ったデートプランも全部無駄になりましたね」
「うるさい。あの計画は全部破棄しろ」
「かしこまりました」

 エモンスキーの屋敷の中から、数名の使用人が出てくる。

 一番に出てきたのはミレイナの側によくいるアンジーというメイドだ。何度か、ミレイナの荷物持ちとして王宮に来ているのを見たことがあった。

 ミレイナの話の中にもアンジーはよく出てくる。気が利いて明るい性格だと。

「ミレイナを部屋に連れていくから案内して」
「いいえ、殿下にお手を煩わせるわけにはいきません。今、人を呼んでおりますので……」
「いや、いい。僕が運ぶ」